
人類はかつては自給自足をしていましたが、文明が発達するにつれ、分業が進みました。
今では
- 食料生産(農業・水産業・畜産業など)
- 食品加工
- 流通
- 生活者(食べる人)
は役割が明確に分かれています。
現代の生活者(食べる人)の多くは都市部に住み、農業・水産業・畜産業が実際に行われている場所からは遠く離れています。
また、生活者(食べる人)が食品加工の現場を見ることや流通の過程を知ることもまずありません。
つまり現代の生活者(食べる人)は、自分たちが日々食べているものについて、ほとんど情報が得られないのです。
これは、現代社会を維持するためには仕方のないことなのかもしれません。
しかし、だからこそ、生産者・加工業者・流通業者・生活者(食べる人)のすべてが、互いを信頼し、食料システムを維持する努力をしなければならないのでしょうね。
<目次>
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「食の安全」というと、
- 清潔(細菌汚染がない)
- 健康的(人体に有害な農薬や添加物などがない)
であることがまっ先に思い浮かぶのではないでしょうか?
つまり、「口に入るものが有害でない」というところに焦点を当てたイメージです。
しかし実際には一言で「食の安全」といっても、そこには以下の3つの意味があります。
食育活動をするには、この、
「食の安全には3つの種類がある」
ということを、理解しておくとよいでしょう。
目次にもあるように、
- フードセキュリティ
- フードセーフティ
- フードディフェンス
この3つです。
以下、順に解説します。
1.フードセキュリティ
1つめは、「食料確保の安全」。
Food Security (フード・セキュリティ)といいます。
必要とされる量の食料を、供給することを指します。
これは Food Security (フード・セキュリティ)について心配していることになります。
日本人は
- 戦後の食糧難
- 石油危機のころの物資不足パニック
の記憶をまだ持っていると考えられるので、
「国際情勢が悪化(戦争など)してもしも輸入ができなくなったら、たちまち食料不足に陥るのではないか」
という不安感をつねに抱いているように思われます。
日本はカロリーベースの食料自給率が4割程度です。
先進国の中ではかなり低い方です(※)。
資源の少ない日本は、いわゆる「加工貿易」によって戦後の経済成長を達成しました。
その代償として、食料自給率が低下するに至っています。
2.フードセーフティ
2つめは、「食品安全」。
Food Safety (フード・セーフティ)といいます。
- 農産物の場合、農薬が基準より多く含まれることがないように
- 加工食品の場合、異物混入がないように(※※)
- 飲食店の場合、食中毒などが起きないように
食品衛生に注意を払うことです。
通常「食の安全」と言われてわたしたちの頭に浮かぶのは、この Food Safety ではないでしょうか。
言い換えると、
- 販売された食品に、釘などの金属片が混入していた
- 賞味期限(消費期限)が誤って印字された食品を販売した
- 大腸菌などの細菌が大量に増殖している食材を使って商品を製造・販売した
- アレルギー表示義務のある食材が原料として含まれているかどうかを確認しないまま、商品を販売した
といったことが、フード・セーフティ上の問題となります。
人は、農業・食品製造業・飲食業といったビジネスサイドにはこのフードセーフティをかなり厳密に求めますが、いっぽうで、家庭で家族によって手作りされたおにぎりやサンドイッチといったものに関しては、さほどフードセーフティを気にしない傾向があります(※※※)。
こうした情緒的な側面があることも、フードセーフティの特徴です。
3.フードディフェンス

3つめは、「食品偽装の防止」。
Food Defense (フード・ディフェンス)といいます(※※※)。
- 産地偽装
- 有機認証を取っていないのに「有機」を名乗ること
- ブランド食品でないのにブランド食品のように表示すること
- 遺伝子組み換えの表示をごまかすこと
などの防止です。
人類の歴史上、食品偽装は昔から行われていたようです。
中国に「羊頭狗肉」ということわざがあるのはその名残ですし、古代ローマ時代にワインなどで偽装が行われていたという記録もあります。
いっぽうで人類は、食品偽装を防ぐための法整備や監視体制などを作り上げてきました。
食品偽装をする側と、それを防いで取り締まる側との戦いが、歴史を通じて行われてきたのです。
4.安全と安心
「食の安心・安全」という言葉を使うとき、「安心」と「安全」が同義語のように扱われていることが多く見受けられます。
実際には両者は異なる意味を持っています。
ですが、違いを正確に知って使っている例は少ないようです。
- 母親が握ったおにぎり
- コンビニエンスストアで販売されているおにぎり
片方を選ぶことになった場合、人はどちらを選ぶでしょうか?
多くの方は、母親が握ったおにぎりを選ぶのではないかと思われます。
母親の握ったおにぎりには、抜群の安心感があります。
人は母親の握ったおにぎりを食する際に、どんな食材や調味料が使われているかを知るために表示をチェックするということはまずありません。
それに比べ、コンビニエンスストアで販売されているおにぎりには母親が握ったおにぎりほどの安心感はありません。
コンビニエンスストアで販売されているおにぎりを買うにあたっては、表示に目をやり、製造年月日(および賞味期限)がどうなっているかや、食品添加物の有無などを確認する方が多く見受けられます。
ところが、実際の安全性は逆になっています。
コンビニエンスストアで販売されるおにぎりは、万が一にも食中毒が起きるのを防ぐため、メーカーは周到な安全策をとっています。
雑菌の増殖を防ぐために入念な管理体制を敷き、製造現場に人が入るときには服を着替え、マスクをし、手指をアルコール消毒しなければなりません。
一方、母親が家族のために作るおにぎりは、それほどの安全性管理はなされていないのが普通です。
あなたのお母さんは、おにぎりを握る際に、服を着替え、マスクをし、手指をアルコール消毒しているでしょうか?
また、雑菌の菌数を定期的にチェックしたりしているでしょうか?
こうした違いがあるにもかかわらず、人は母親の作るおにぎりに安心感を持つのです。
ここに、安心とは何か、安全とは何かを考えるヒントがあります。
4-1.安全
「食の安全」とは、食を提供するシステムそのものに、重大な瑕疵がないことを指します。
「食を提供するシステムが具体的にどうなっているか」ということに直接関係があります。
さきほどの例でいえば、食を提供する側(コンビニエンスストアおよびそこに納品しているおにぎりメーカー)の安全管理は徹底しています。
食を提供する企業は、「食の安全」のために、決められた配慮を行うよう、法律等で義務づけられています。
4-2.安心
一方で「食の安心」を確立することについては、法律で義務づけられているわけではありません。
しかし、買い手(生活者)が求めているのは「食の安心」です。
単純に、法律に定められたことをしているだけでは買い手(生活者)が安心するわけではありません。
「食の安心」とは、食を提供する側に対して食べる側が持つ信頼感を指します。
これは、「実際に食を提供する側が安全性にどのくらい努力を払っているか」とは直接関係がなく、「食を提供する側」と「食べる側」とのコミュニケーションのあり方が問われる概念です。
さきほどの例でいえば、食を提供する側(母親)に対して食べる側(家族)が持つ信頼感は絶対的なものがあります。
これは、「実際に母親が安全性にどのくらい努力を払っているか」とは直接関係がありません。
そのため、コンビニエンスストアで販売されているおにぎりの方が安全管理上は優れているにもかかわらず、人は母親の握ったおにぎりを選択します。
4-3.偽装
なお、食品偽装は、食の安全に密接につながっているものと、比較的関係の薄いものとがあります。
例えば、
- 佐賀関以外の港で水揚げされたサバを「関サバ」として販売する
- アレルギー表示が義務づけられている成分が入っているにもかかわらず、それを表示せずに販売する
この両者では意味が異なります。
前者は、そのこと自体は人体に健康上の悪影響をもたらす偽装ではありません。
関サバだと思って食べてみたら普通のサバだった、ということに過ぎず、毒物を食べたわけでもなければ、腐敗したものを食べたというわけでもありません(ただし、経済面での損害をもたらすものであり、罪のない偽装であるということにはなりませんが)。
後者は、アレルギーを持つ人が騙されてその食品を口にすることにより、健康上の被害(ときには生命にかかわる)をもたらす可能性のある偽装です。
したがい、前者は食の安全に直接かかわる偽装ではないのに対し、後者は食の安全に直接かかわる偽装に該当します。
5.まとめ
食の安全には
- フードセキュリティ
- フードセーフティ
- フードディフェンス
の3つがあります。
それぞれ重要な要素なので、生産者側・消費者側がよくコミュニケーションをとってしっかり守っていきたいですね。
(※)先進国のなかで食料自給率が日本より低いのは韓国とシンガポールくらいです。
(※※)かつての食品工場は、出荷される食品をチェックし、危険なものや不潔なものが見つかったら弾く、ということをしていました。現在は、そもそも異物混入などがないように、生産プロセスじたいを改善する、という方法が一般的です(HACCPやISO22000 など)。
(※※※)Food Defense (フード・ディフェンス)にはもう1つの意味があり、「農地や食品工場などでテロ行為が発生するのを防ぐ」ことを指す場合があります。いわゆるテロ組織が行うものとは別に、食品企業の評判を傷つける目的でテロ行為が行われる場合があります。その企業を解雇された元社員が、その報復のために食品テロを計画するというケースです。そのためアメリカの食品企業では、解雇した社員が企業を「逆恨み」しないための工夫がなされていることがあり、これもフードディフェンスの1つとされています。
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