
「この食品は、43点です」
「この食品は、72点です」
こんなPOP(ポップ)が食品売場の店頭にあったら、買いもの客の行動は大きく変わるでしょうね。
海外では、実際に食品に点数がついて売られているところがあります。
どうやって点数をつけているのでしょうか?
なぜ、そのような売り方が実施されているのでしょうか?
ここでは、海外で実施されている「食べものに点数をつける売りかた」について、解説します。
<目次>
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1.点数のつけかた

「食品に点数をつける」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、飲食店にはすでに点数がついています。
ぐるなびなどの評価サイトでは、飲食店に点数がつけられていますね。
アマゾンでは、書籍をはじめさまざまな商品に、評価点数がついています。
このように、点数をつけて商品を評価することは今ではふつうに行われています。
したがって、食品に点数がつけられていても、なんら不思議はないと考えられます。
ぐるなびやアマゾンでは、点数をつけているのは消費者です。
評論家やコンサルタントなどが点数化しているのではありません。
一方、海外で実施されている「食品の点数化」は、消費者が参加して行われているのではなく、点数をつける基準(ルール)を専門家が作成し、その基準にもとづいた点数化が行われています。
おもな事例を紹介します。
1-1.ウェイトウォッチャーズ
創業50年を超える、会員制の、世界的に有名なダイエット専門会社です。
この会社では、独自の数式を開発し、食品をポイント化しています。
- カロリー
- 脂肪
- 食物繊維
の量を測定し、少々複雑な数式にあてはめ、ポイントを算出します。
(この数式は特許になっています)
ウェイト・ウォッチャーズは、市販されている食品や、レストランのメニューなどににこの方法でポイントをつけ、会員むけに発表しています。
会員は、ポイント表をみながら食品やメニューを選び、選んだものの合計ポイントが決められた基準を上回らないようにダイエットを行います。
1-2.オーラック(ORAC)
食品の抗酸化力を測定する方法が1990年代にアメリカ開発されましたが、これにもとづく食品の抗酸化力の値ことを ORAC といいます。
2000年代に入り、アメリカの多くの食品メーカー、なかでも自然食品系のメーカーがこの値を商品のアピールとしてさかんに使用しました。
つまり、自社の商品の ORAC を測定し、この数値を表示しながら販売を行うというものです。
<ORAC の値の高いものの例>
- 菓子類の場合:チョコレート。
- 野菜の場合:アーティチョークや豆類
- 果物の場合:ベリー類
- スパイスの場合:パセリ
1-3.総合栄養価指標(ONQI)
上記の ORAC は「抗酸化力」という1つの側面を数値化するものですが、これに対し、ONQI はタンパク質・炭水化物・脂肪・ビタミン・ミネラル・食物繊維・フィトケミカルなど30種類の栄養成分・機能性成分を測定し、総合評価しようという試みです。
医学・栄養学・化学の分野の専門家が集まり、アメリカで進められている研究プロジェクトです。
現在では「NuVal(ニューバリュー) システム」とも呼ばれます(むしろこちらの言葉のほうが使われているようです)。
総合評価された食品には、100点満点で点数がつけられます。
<NuVAL(ORAC)による高得点例>
- ブロッコリー:100点
- ブルーベリー:100点
- オクラ:100点
- パイナップル:99点
- リンゴ:96点
- スイカ:94点
- イチジグ:91点
- バナナ:91点
- アボカド:89点
学校のカフェテリアでも採用されており、信頼度の高い点数法とされています。
1-4.ニュートリポインツ(Nutripoints)
1980年代に開発され、世界13カ国で採用されている点数法です。
健康に良い要素(ビタミン、ミネラル、タンパク質など)が含まれている場合は点数をプラスし、反対に健康に悪いとされる要素(コレステロール、飽和脂肪酸、砂糖、塩分など)が含まれている場合は点数をマイナスします。
「プラスからマイナスを引いた差」を、「その食品の総カロリー」で割ったものを、スコアとします。
1-5.フードスコア(EWG's Food Scores)
「環境ワーキンググループ」というNPOが活動の一環として食品のスコアリング(スコア化)を行っています。
栄養だけでなく、安全性が高いかどうか、環境にやさしいかどうかも含めてスコア化しています。
10点満点ですが、点数が低いほど「安全」、点数が高いほど「危険」となっています。
市販されている食品のうち80,000種類を調べ、ウェブサイトでそのスコアを公表しています。
1-6.総合栄養濃度指標(ANDI)
自然食品チェーンの最大手「ホールフーズ・マーケット」の野菜売場で採用されている点数法です。
ミネラルやファイトケミカルなど、野菜が含む機能性成分(微量栄養素)にフォーカスし、その濃度の高さ=「濃さ」に得点をつけています。
機能性成分(微量栄養素)が濃いほど点数は上がり、カロリーが高いほど点数が下がります。
つまり「カロリーが低いのに機能性成分が濃い」野菜ほど、成績が良いというわけです。
<ANDI による高得点例>
- ケール:1000点
- クレソン:1000点
- チンゲンサイ:865点
- ハクサイ:714点
- ホウレンソウ:707点
1-7.野菜・果物のパワー指標(PFV)
2014年にアメリカで開発されました。
上記の ANDI と似ており、栄養素の「濃さ」を示す指標です。
ANDI はファイトケミカルの濃さを重視していますが、この PFV はビタミン、ミネラルの濃さを重視する計算方法です。
<PFV による高得点例>
- クレソン:100点
- チンゲンサイ:92点
- ビーツ(ただし、葉):87点
- ホウレンソウ:86点
- パセリ:66点
1-8.ガイディング・スターズ(GUIDING STARS)
前述の Nutripoints(ニュートリポインツ)と並び、認知度のもっとも高い点数システムの1つです。
Nutripoints(ニュートリポインツ)が主に学校のカフェテリアなどに採用されているのに対し、このGuiding Stars(ガイディング・スターズ)はスーパーマーケットの店頭でよく採用されています。
よく採用されている理由は、シンプルで分かりやすいからです。
他の点数法は100点満点や1000点満点と数字が細かいのに対し、Guiding Stars(ガイディング・スターズ)は「☆(星)の数」で食品を評価しています。
すなわち、ミシュランなどと同様に、☆(1つ星)、☆☆(2つ星)、 ☆☆☆(3つ星)、および「☆の数ゼロ」という4段階で、店頭にある食品を評価しています。
このシンプルさ、分かりやすさがスーパーマーケットの店頭では重宝されているようです。
2.点数をつけて売られているワケ

以上8つの「食品の点数化システム」を紹介しました。
アメリカをはじめとした海外の食品売場や学校のカフェテリアなどで、こうした「食品に点数をつけて」販売するやりかたが広まってきています。
なぜ「食品の点数化」が広まっているのでしょうか。
これには、買う側、売る側、双方にとってのメリットがあります。
2-1.買う側のメリット
食品を選ぶ際に、
「美味しいだけではなく、栄養のあるもの、安全なものを確認して選びたい」
と考える人が増えてきました。
今までは、そのような人たちは
「食品ラベルをよく読む」
といった方法で確認をしていましたが、食品ラベルを読むといっても読んですぐ分かるわけではなく、書かれていることを理解するためには知識も必要です。
知識があったとしても、1つ1つ読むには時間もかかります。
それが、点数表示されることで「確認作業」が少なくてすむことになります。
点数の高いものを選べばよいわけですから。
また、これまで食品選びに無頓着だった人も、目の前で食品に点数が表示されていたら、自然と点数の高いものを買うようになるでしょう。
結果的に人々の食生活は改善されるので、社会全体にとってもメリットがあることになります。
2-2.売る側のメリット
店頭に並んでいる食品に点数がつくと、
- 点数の高いものは売れ行きが良くなる(=プラスの作用)
- 点数の低いものは売れ行きが落ちる(=マイナスの作用)
というプラス・マイナス両方の影響が考えられます。
ではプラスとマイナスを比較してどうかというと、ほとんどの場合、プラスの効果のほうが大きいと言われています。
全体として、売上が上がることになります。
じつは、この点数システムにかぎらず、
「良いもの・悪いものがまざった状態で売るよりも、良いものと悪いものに仕分けし、それぞれ違う価格で販売するほうが、全体の売上がアップする」
というのは、ほとんどあらゆる販売について言えることです。
- たとえば果物も、収穫したものを玉石混交のまま販売するのではなく、大きくて形のよいもの、普通のもの、形がいびつだったり小さかったりするもの、に仕分けし、異なる価格をつけ、異なる顧客に販売されています。
- 米なども同様に、品質で仕分けされ=等級がつき、異なる価格がつきます。
これと同じ考え方が、食品の点数システムにも通用するわけです。
したがって、売る側にとっても、点数システムにはメリットがあることになります。
2-3.日本で「食品の点数化」が見られない理由
日本では、こうした「食品の点数化」が見られません。
あくまでも想像ですが、理由は2つあるように思われます。
<理由(1) 平等主義>
昨今どうなっているかはともかく、日本は長らく「落ちこぼれを作りたくない」教育の国でした。
「護送船団方式」という言葉もあったほどです。
つまり、点数化することで落ちこぼれる食品が出てしまうのが、望ましくないと感じる人が、食品業界に多いのかもしれません。
<理由(2) 日本の食育の多様性>
前述した海外の「食品の点数化システム」は、ほとんどが「栄養」のみを評価対象としています。
(1つだけ、安全性・環境性を評価しているものがありますが)
これは、海外の食育がもっぱら栄養教育であることと無関係ではありません。
海外の消費者が食について気にするのは、もっぱら栄養のことなのです。
一方、日本の食育は栄養教育だけではありません。
たとえば「個性的な農家が、こだわって育てた野菜」に、日本の消費者は価値を感じます。
「地元の農産物(地産地消)」に対しても、価値を感じるでしょう。
したがって、「栄養」のみを評価対象とする考え方に、日本の消費者はなじまないのかもしれません。
3.まとめ
海外では「食品に点数をつけるシステム」が存在しています。
食品を買う側、売る側の両方にメリットがあるため、食品売場などに普及しつつあります。
学校のカフェテリアで採用されているケースもあります。
ただ、ほとんどが「栄養」のみを評価対象としているため、日本の消費者にはなじまない可能性もあります。
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