
日本の栄養学とアメリカの栄養学は、共通しているところもむろんありますが 、違っているところもあります。
同じ学問だから内容も同じはずだと思いたいですが、考え方の根本が違っています。
この違いのことを「ターザン栄養学」 と呼んでいます。
<目次>
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1.ドクター・ジャンスン
詳しい話はのちほど述べるとして、この「ターザン栄養学」のことを筆者に教えてくれたのは、アメリカ東海岸の都市ボストンに住むドクター・ジャンスンという医師でした。
もう20年ちかく、昔のことです。
1-1.食育的な医師
ジャンスン先生は医薬品を使わずに食事とサプリメントで治療をするタイプの医師です。
そのため、職業がら、食事にはやかましい人でした。
一緒に食事をしにレストランに入るときもやかましいひとでした。
オーダーを取りにきた店員をつかまえ、根掘り葉掘り質問するのです。
こんなことを聞きます。
「このメニューの食材は何か」
「それはどこ産のものか。旬なのか」
「栽培方法はどうなっている」
「有機なのか。認証マークを見せなさい」
「調味料は何を使っている」
「それは有機か。証拠を見せなさい」
ある意味、なかなか「食育的な」質問です。
答が気に入らなかったり店員が答えられなかったりした場合、ジャンスン先生はもう料理を注文しません。
自分で持ってきた水しか飲まなくなります。
「キミは遠慮なく注文するといい。好きなものを食べなさい」
なんて言ってくれますけど、その状況で自分だけオーダーするのは気が引けます。
面白いことに、ジャンスン先生はそのやかましさで近隣の健康オタクや菜食主義者のあいだで少々有名になっていました。
彼の「尋問」をクリアした飲食店は人気が出るという現象がおきていました。
大量のサプリメントを飲む医師
そんなジャンスン先生は、サプリメントを山のように飲む人でもありました。
食事の後、30粒くらいのサプリメントを飲むのです。
毎食後に、30粒のサプリメントです。

30粒というだけでもびっくりしますが、日本で見るサプリメントより二回りほど粒が大きいのです。
そんな大きさのものを30粒飲むわけです。
はじめてその光景をみたとき、筆者は目を丸くしました。
その様子をみて、ジャンスン先生は言いました。
「なにもそんなに驚くことはないよ。このへんの人はみんな、こんなものだ」
「そんな大粒のサプリメントをそんなにたくさん飲んで喉につまったりしないんですか?」
「いや全然」
「サプリメントを喉につまらせて死んだ人とか、いないんですか?」
「聞いたことがないね。そんなことより、キミも飲みなさい。キミの分も用意してある。ほら、処方箋も作っておいた。それから、ほら、これが請求書だ」
1-3.どんなサプリメントを飲んでいるのか
ジャンスン先生が自分の健康のために、毎食後に飲む30粒のサプリメントはこんな内容でした。
- マルチビタミン
- マグネシウム
- クロム
- 亜鉛
- マンガン
- セレニウム
- コエンザイムQ10
- イプリフラボン
- GLA(ガンマ・リノレイン酸)
「日本人はサプリメントは飲みません。 飲んでも1粒とか2粒とかですよ」
と筆者は言いました。
すると先生はすこし考え込んでいましたが、しばらくして
「日本はそんな状態なのか。それはいかん。では私が日本に行くことにしよう。セミナーを開いて私に話をさせるといい。日本人がもっとサプリメントを飲むように、仕向けてあげよう」
などと、とんでもないことを突然いいはじめました。
いやー、それって大きなお世話だと思いますよ。
と筆者は言いたかったのですが、英語でなんていえばいいのか「とっさの一言」が分からずにもごもごしていると、ジャンスン先生はさらにこうつけくわえました。
「これはキミが私を日本に招待するんだからね。旅費はキミが払いなさい。飛行機はファーストクラスまでは気の毒だから要求しない。ビジネスクラスで構わないよ」
2.ターザン栄養学
前置きが長くなりましたが、話を戻すと、サプリメントに対する日本とアメリカのスタンスについてジャンスン先生から教わったのが
「ターザン栄養学」
でした。
これは
「ターザンにサプリメントは必要か?」
という命題からきています。
ターザンは大自然のなかに住み、食べたときに食べ、眠りたいときに眠り、運動量も豊富で、サラリーマンみたいなストレスもなく、ある意味とても健康な生活をしてます。
そんな野生児のターザンは、サプリメントを飲む必要があるでしょうか?

2-1.日本の栄養学
ここで日本の栄養学では、
「ターザンにサプリメントは不要だ。これ以上の栄養素は必要ない。むしろ過剰摂取で健康を損なうだろう」
と考えます。
だから日本人はサプリメントをばか飲みしません。
栄養の摂取量とその効果には、多くの場合、下のグラフのような関係があります。

摂取量が少なすぎると(Aよりも少ないと)、健康を損ないます。
反対に摂取量が多すぎても(Bより多くても)、健康を損ないます。
栄養摂取量がAとBのあいだにあれば、健康効果はプラスになります。
ベストな摂取量は、★で表されたところにあります(オプティマルヘルスと呼ばれることもあります)。
日本の栄養学の考え方では、ベストな摂取量(★の位置)を達成するのにサプリメントを必要としません。
適切な食事により、達成できると考えられています。
2-2.アメリカの栄養学
ところがアメリカの栄養学では、
「ターザンがサプリメントを飲んだら、もっと健康になる」
と考えます。
つまり自然の状態にさらに手を加える(ターザンがサプリメントを飲む)ことにより、人工的に「より高いレベルの健康」を得られると考えているのです。
だから当時のアメリカ人はサプリメントをばか飲みしていました(※)。
前述したグラフはアメリカの栄養の考え方にも当てはまりますが、違う点があります。
Bの位置が日本の場合よりも右にあり、したがってベストな摂取量を表す★の位置も、日本より右にあります。

したがって、アメリカの栄養学の考え方では、ベストな摂取量(★の位置)を達成するのにサプリメントを必要とします。
適切な食事だけでは達成できないと考えられています。
2-3.比較
分かりやすくするために、前述の2つのグラフを重ねてみましょう。
すると、下のようになります。

このように、オプティマルヘルスの位置(=★の位置)が日本とアメリカでは違います。
これが、
- 日本:ターザンにはサプリメントは不要(サプリメントを飲むとかえって健康にマイナスになる)
- アメリカ:ターザンが適量のサプリメントを飲んだらもっと健康になる
という考え方の違いを生み出しています。
5.まとめ
日本では「適切な食事により栄養は満たされる」と考えられているのに対し、アメリカでは「どんなに食事を適切にしても、栄養は不足する」と考えられています。
そのため、アメリカ人は大量のサプリメントを飲みます。
健康的なターザンですら、サプリメントを飲むともっと健康になる、とアメリカでは考えられています。
ターザンにサプリメントは必要なのか…
日本とアメリカの栄養学、どちらが正しいのか筆者には分かりませんが、自然と共存してきた農耕民族の日本人と、自然を征服してきた狩猟民族のアングロサクソンとの違いが、こういうところにも出ているように思います。
(※)ただし最近はそうでもないようで、サプリメントから農産物への回帰が進んでいます。これは「野菜の機能性」という概念や「ファイトケミカル」についての知識が一般に広がるにつれて生まれた変化です。英米は以前はサプリメント大国でしたが、サプリメントに頼っていた人たちが最近は「たとえばケールやアボカドなど農産物には機能性の高いものがあり、それが手に入りやすくなっているならサプリメントに頼る必要がない」と考えるようになり、野菜などの農産物に回帰しつつあります。
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