日本の食育は海外の食育とどう違う?

 

食育は日本だけのものではありません。

しかし日本という国の状況が食育にも反映されているため、日本の食育はある意味で特殊であるとも言えます。

今回は、日本の食育と海外の食育を比べ

  • どこが共通しているのか
  • どこが異なっているのか

を解説します。

 

<目次>

  1. 日本の食育
    1. 国や自治体の食育
    2. 民間の食育
  2. 海外の食育
    1. アメリカ、イギリス型
    2. フランス、イタリア型
  3. 日本の食育と海外の食育の共通点
    1. いわゆる先進国であること
    2. 栄養教育が国の政策に取り上げられていること
  4. 日本の食育にあって海外の食育にないもの
    1. 日本の状況
    2. そのための食育
  5. まとめ

 


1.日本の食育

「食育」という言葉は明治時代からありましたが、日本が本格的に食育を推進するようになったのは2005年に食育基本法が制定(2006年から施行)されたあたりからです(※)。

 

1-1.国や自治体の食育

食育基本法にもとづき、食育のために国家予算が投じられることになっています。

予算はおもに農林水産省、厚生労働省、文部科学省に振り分けられ、

  • 農林水産省:農業推進のための食育
  • 厚生労働省:国民の健康のための食育
  • 文部科学省:教育の一環としての食育

に使われています。

 

食育基本法では、各自治体もそれぞれの食育政策を実施することが求められています。

自治体によって

  • 農業推進をテーマとした食育を実施するところ
  • 健康増進をテーマとした食育を実施するところ
  • 教育をテーマとした食育を実施するところ

などがあり、食育政策の内容は多様です。

 

1-2.民間の食育

食育は国の政策にも合致することから、多くの民間企業や団体も食育への取り組みを行っています。

  • 企業の場合:食育に関する商品の発売
  • 団体の場合:セミナー、講演会、食育の民間資格の発行

といった活動が行われています。

 


2.海外の食育

 

ひとくちに「海外」といっても、食育の内容は国によってさまざまです。 

ですが「国民の健康増進」が食育の重点の1つとなっていることは、どの国も同じです。

 

いっぽう、国によって異なるのは

  • 「国民の健康増進」がほぼ唯一の目的である国
  • 「国民の健康増進」以外にも大きな目的がある国

がある、という点です。

前者を「アメリカ、イギリス型」、後者を「フランス、イタリア型」と呼ぶことにしましょう。

 

2-1.アメリカ、イギリス型

この両国は、国民の肥満割合が高いことで有名です。

したがって、おもに国民の肥満割合を下げること=「国民の健康増進」に食育の重点が置かれています。

 

2-2.フランス、イタリア型

この両国は、豊かな食文化を持っていることで有名です。

そのことを反映し、「国民の健康増進」以外に、「食文化の維持・発展」にも食育の重点が置かれています。


3.日本の食育と海外の食育の共通点

日本を含め、食育がさかんな国には以下のような共通の特徴があります。

  • いわゆる先進国であること
  • 食育が国の政策に取り上げられていること

3-1.いわゆる先進国であること

食料が不足している国や地域では、なにより食料を確保しなければなりません。

生存のためにカロリーが必要であり、食を自由に選んでいられない状況にあります。

そのような国や地域では、食育は成立しません。

 

いっぽう、食料がじゅうぶんに供給できる国や地域(いわゆる先進国)では、食の選択肢も豊富です。

選択肢が多い結果、飽食や偏食、それに伴う過剰なカロリー摂取、過剰な脂質摂取、栄養素の偏りが起きやすくなります。

食育の必要性が叫ばれるのは、そのような国や地域においてです。

 

3-2.食育が国の政策に取り上げられていること

飽食や偏食、それに伴う過剰なカロリー摂取、過剰な脂質摂取、栄養素の偏りは、「生活習慣病」の原因になります。

生活習慣病の患者が増えれば、その国の医療費も増大し、ひいては国家財政を圧迫することにつながります。

そのため、いわゆる先進国では食育が国の政策に含まれています。


4.日本の食育にあって海外の食育にないもの

 

いわゆる先進国の食育は「国民の健康増進」すなわち栄養教育に最大の重点が置かれています。

これは日本も同じです。

フランスやイタリアのような国では、「食文化の維持・発展」にも重点が置かれています。

日本も同様で、「食文化の維持・発展」をテーマにした食育活動がさかんに行われています。

 

しかし、日本ではもう1つ別の要素にも食育の重点が置かれています。

それは「食料自給率の向上」です。

 

4-1.日本の状況

日本は先進国のなかで食料自給率のもっとも低い国の1つです(※※)。

近年の日本の食料自給率(カロリーベース※※※)は、約40パーセントとなっています。

大雑把にいえば、日本は約6割の食料を海外から輸入していることになります。

 

これだけ多くの食料を輸入に頼っているとなると、そこには2つの不安が生まれます。

1つは、戦争などの理由で食料の輸入ができなくなった場合、どうするのか、という不安。

もう1つは、船であれ航空機であれ海外から食料を輸送するには燃料が必要で、それが資源の消費や二酸化炭素の発生につながる、という不安。

したがって食料自給率を上げることは、日本全体の課題になっています。

 

4-2.そのための食育

日本の食育にも、食料自給率の問題が色濃く反映されています。

国や自治体も、食料自給率を高める施策を展開しています。

結局のところ、こうした施策は

  • 農業振興
  • 国産農産物の推奨(とくにパン食ではなく米飯の推奨)

と深く結びつくことになります。

 

海外では、一般に「食料自給率を不安視する」ことはあまりありません。

この要素は、日本独特のものと言えます。

 

5.まとめ

食育を実施しているほとんどの国では「国民の健康増進」にその重点が置かれています。

フランス、イタリアなどの国では「国民の健康増進」に加え、「食文化の維持・発展」にも重点が置かれていますが、日本もそうした国の1つです。

ただし日本では「国民の健康増進」「食文化の維持・発展」にとどまらず、「食料自給率の向上」にも重点が置かれており、これが日本の食育の特徴となっています。

 

(※)日本の食育の推移(歴史)については、こちらの記事も参考になります。「食育活動の歴史と未来」

(※※)都市国家であるシンガポールは日本よりも食料自給率が低いですが、食料は輸入するという国家方針が明確なため、食料自給率を不安視することはないとされています。

(※※※)食料自給率には、熱量で計算する「カロリーベース」と金額で計算する「生産額ベース」があります。


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